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2021-01-03

辻村深月著「ツナグ」〜熟成する一冊〜料理仕立てのパン

 
「あなたの会いたい人は誰ですか」
 
一生に一度だけ、死者に会うことができるのなら。
 
目の前にその人の姿は浮かびますか。
 
 「使者(ツナグ)」は、そのたった一度きりの願いを叶えてくれるのである。突然死のアイドルとの再会を求めるOL。母親に病状を告げなかった長男。友人に対する嫉妬心と後悔に押し潰されそうな女子高生。婚約者の失踪をうけいられずに待ち続ける会社員。それぞれの思いを抱いて死者と面会する。死者との面会で過去の真実を知り、人々は前を向いて歩いていくことができるのか。
 
 僕たちはやがてこの世から消えていくことを知っている。僕は大切な人に何を残すのだろうか。家族は僕に何を残して欲しいと思っているのだろうか。そう問われているように感じながらページをめくる。
 
 僕の目の前に年を重ねた一人の女性がいます。毎朝、写真立ての中の祖母にお水を供え、1日の無事を願って手をあわせるのです。写真を見つめていると、いつも最後に祖母と話した時のこと思い出が頭に過ぎります。祖母は僕の手を握りながら言いました。「よく来てくれた。ありがとう」。しかし、その数分後には、僕の手を握り締めたままで、不思議な顔で僕を見つめながらこう言うのです。「あんたは誰ね」。僕の胸は張り裂けそうになり、溢れ出した涙を止めることはでませんでした、その時の僕は祖母の手を強く握り返す事だけで精一杯でした。
 
 幼い頃の優しかった祖母。年老いて小さく丸くなった祖母。僕にとってはかけがえのない大切な人。僕と祖母は一生に一度ではなく、毎日心の中で語りあっているのです。
 
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