堺市チャリティー上映会~熊本の映画「うつくしいひと」、そして復興支援ラスク「彩るヲモイ」
~「熊本大地震」におびえた夜~
2016年4月16日 滋賀県の夜。大地堂 廣瀬さんと食事をしながら、新麦コレクションについて語り合っていた。二人の目に飛び込んできたのは「熊本大地震」を告げる衝撃的なニュースであった。熊本県民の安否と被害の状況が把握できない。4月23日、24日に福岡で、初の新麦コレクションツアーの開催が予定されている。頭の中が真っ白になり、熊本の親戚の顔が次々と浮かびあがる。何かしなければいけない。何をしていいかがわからない。無力な自分に歯がゆさと焦りばかりが募っていった。
~「立ちあがることから始めよう」~
堺市に住む自分に何が出来るのか。現地に行くことも出来ない。歯がゆい思いが心から溢れ、自分の無力さに言葉を失っていた。そんなある日、友人との電話のやりとりの中で、行定勲監督「うつくしいひと」のチャリティー上映会の話題が上がり、堺市との連携で実現する方法を模索した。友人の呼びかけをきっかけに堺市文化振興財団との連携が決まり、ボランティアスタッフが結成される運びとなった。
~熊本への想い「堺市であり、熊本であり、日本である。」~
2016年5月18日 熊本への想いをブログで綴った。少しでも想いが届くようにと・・・
熊本大震災のニュースを知り、突然、胸の奥にある記憶を収めていた引き出しが、強い力でひっくり返されたような戸惑いが体中に走った。
何十年も前の幼少期の青白い遠い夏のかけら。祖母の住む熊本で過ごす夏休み。幼すぎる子供でありながら、何となく澄みわたるような空気が醸し出す透明な感覚が好きだった。大切な人たちと囲む食卓は、穏やかでゆったりとした時間が流れていた。僕の少年時代の優しくて、丸まった思い出という時計の針はそのまま止まったままである。
それから数年が経過し、大人の僕は熊本にいた。帰省理由は、祖母の入院であった。
祖母はベッドに座り、僕の顔をしっかりと見つめながら、そっと口を開いた。
「誰?」
あまりにも悲しすぎるひとことであった。僕は祖母の手を強く握りながら、
「ばぁちゃん、正和やで。大阪から来たんやで。会いたかった。」
「正和ね。会いに来てくれたと。嬉しかぁー。ありがとね。ありがとね。」
そう言いながら、僕の手を握り返す祖母の力の弱さに思わず心が動揺した。そして、2、3分間の会話を交わし、僕の手を握りながら、祖母が僕に言ったひとこと。
「誰?」
言葉にならない涙がこぼれた。部屋の壁がみるみるうちに霞んでいった。こみあげてくるのは、やるせなさと自分の無力さだけだった。何度もこの会話を繰り返し、何度も悲しみと向き合わなければならない時間は、白い部屋の中でグルグルと勢いを増し、僕の目の前で広がっていった。
現在の僕の1日は、他界した祖母の写真に手を合わせることから始まります。
「家族が幸せでありますように」「支えて下さる方々にありがとう」「今日もパンでつながり、たくさんの方々が笑顔になりますように」。
そして、「被災された方々の生活が、1日も早く復興しますように」。
阪神淡路大震災があり、東日本大震災があった。そして、熊本大震災で、さらに日本中が悲しい思いをしている。僕がいるのは「堺市」だけど、「熊本県」への想いがある。東北も完全な復興には、かなりの時間がかかると聞いている。現地に行くことのできない、自分にもどかしさを感じる。でも、堺市にいるからこそ、出来ることがあることを信じています。
今日は、特別に僕の側にばぁちゃんの写真を置いています。ばぁちゃんのチカラを借りて、みなさまへの想いを綴っています。僕たちは「堺市であり、熊本であり、日本である」ことを忘れてはいけない。僕は人のチカラ、そしてパンのチカラを信じています。
~熊本県応援ラスク「彩るヲモイ」~
「うつくしいひと」のチャリティー上映会が決定し、もっと自分にしか出来ない支援がないかを考えていた。パンヲカタルの「パンでつながり、笑顔になる」。これこそが活動の原点である。
パンのチカラ、人へ想いをカタチにしたい。その想いから生まれたのが、熊本復興支援ラスク「彩るヲモイ」である。コンセプトは「熊本県民の未来に彩るような笑顔の花が咲き、四季折々のうつくしい風景の訪れに想いを込めた商品」。「彩るオモイ」は、熊本県産の玉名のトマトと熊本製粉の小麦粉を使用した。熊本県産の食材を使用することにより、熊本の素晴らしさを知っていただけるのではないかと考えた。ラスクの製造には堺市の「Bread Craft オオウラ」様と株式会社 丸紅商会のご協力で完成することが出来た。また、当日は熊本の名産品「松風」、「馬刺し」、「くまモンのぬいぐるみ」などの販売もあった。
~行定勲監督「うつくしいひと」が伝えるもの~
熊本の美しい熊本の城下町の探偵事務所にある依頼が舞い込む。その依頼とは、熊本県中を震撼させるほどのもの内容であった。また、一方では、怪しげな雰囲気を携えた紳士が、大学生の澄子の勤める本屋を訪ねる。紳士は澄子の母の仕事場にも現れ、周囲の友人達も不審に想い、次第にざわつき始める。その夜、澄子は母と共に、亡くなった父との思い出を綴った未完成の8ミリ映画を観た。そこには、高校時代の父と母、そしてもう一人の男子学生の姿があった。
「うつくしいひと」は、熊本への大きな愛と儚くてせつない想いが、うつくしく描かれた作品である。僕は2回目の上映を観ていて、たまらなく胸が熱くなった。目の前のスクリーンに描かれる震災前の美しい風景。これは映画であり、映画ではなく事実である。この風景と熊本の人たちの現実は、このスクリーンの奥にある。
震災から次第に時間が流れ、メディアからは情報量が減少した。未だに家屋と人の心はブルーに覆われていると聞いている。大きなことはできなくても、自分たちに出来ることを、出来るだけ続けていくことの大切さを感じた。ここから、さらに熊本県と堺市が繋がり、日本中に想いが広がっていくことを心から願っている。
「チャリティー上映会」熊本の映画「うつくしいひと」
日時:2016年7月9日(土)
会場:堺市総合福祉館6階ホール(堺市堺区南瓦町2-1)
料金:前売り・当日販売500円(賛助金)
主催:公益財団法人堺市文化振興財団
協力:堺市、ビジュアル・アート・ビジョン
後援:熊本市
※公益財団法人堺市文化振興財団facebookページより、一部写真を転載