toggle
2016-05-07

森沢明夫著「津軽百年食堂」  カラフルな一冊~スイーツなパン~

森沢明夫著「津軽百年食堂」

梅雨の合間の晴れた空の隙間から、季節外れの桜の花びらが舞い降りた。
明治時代から弘前市街に続く大森食堂。
伝統的な味にこだわる津軽蕎麦屋を開店した大森賢治。
賢治が目指したのは、お客さんが優しい気持ちになれる味。

時は流れ、大森食堂の暖簾を引き継いだ三代目の大森哲夫。
哲夫の目に宿るのは、毎朝、母のひいた出汁を、目を閉じて味見するときの凛々しい賢治の横顔。
哲夫は初代の味と想いを守り抜くことに全身全霊をささげていた。

大森家の長男である陽一は、父との折り合いが上手くいかず上京。
東京と津軽の距離は、それぞれの心にある譲れないこだわりと擦れ違う互いを想う気持ちそのものであった。
陽一はピエロに扮装し、バルーン―アートのアルバイトをしていた。
ピエロに扮装することで、地味で内気な陽一は違う自分に変われる。
子供たちや家族の屈託のない笑顔を見ることに喜びを感じていた。

陽一は、ある日偶然にカメラマン志望の筒井七海と出会う。
七海の実家は弘前にあるりんご農園である。
二人は同郷ということで意気投合し、東京という異空間でさまよいながらも必死で生きているという同じ境遇に、次第に心の距離が縮まっていく。
二人が繋がる過程には、津軽弁というあたたかな響きがあった。
そして、陽一宛てに一本の電話がかかる。
姉の桃子であった。
桃子は高校卒業後、上京して就職。
結婚をするも離婚後に弘前に出戻っていた。
実家から数分のマンションで一人暮らしをして、メガネ屋に勤務している。
桃子は、陽一に大森食堂百周年と毎年GWに開催されるさくらまつりに出店を伝えた。
弘前に帰省した陽一を青い空と高校時代の友人たちがやさしく包みこむ。
陽一の心の中には、遠い記憶の一点が挫折となり現在も消えることなく存在していた。

いずれ挫折はカタチを変えて、経験値となり、夢を叶えるチカラに変わる。
悲しみも喜びも人生にとっては、不可欠であることを教えてくれる。
人生に祝福の桜の花びらが舞い降りるように、未来の自分に希望のバトンを渡したい。
日々感謝の心を紡いていきながら。

2015.06.13読了

LINEで送る
Pocket

関連記事