toggle
2016-05-07

三浦しをん著「月魚」 熟成する一冊~料理仕立てのパン~

三浦しをん著「月魚」

静寂な月の夜に流れる湿気を含んだ風が、胸の奥でざわめいた。
都心から少し距離を置く、雑木林に包まれた古書店「無窮堂」の三代目の主 本田真志喜。
真志喜には、硬質で色素の薄い鉛筆のような儚さを感じる。
そして、幼なじみで卸を営む瀬名垣太一。
真志喜とは対照的な柔軟性且つ凝縮した力強さを備え持つ人である。

二人に流れるものは友情か。
それとも愛情なのか。
戸惑いを覚えながらも僕の指先はページの先を急ぐように進んだ。

古書に選ばれた二人の運命を翻弄するきっかけ。
それは、瀬名垣が出会った「運命の一冊」であった。
運命の一冊による家族との別れ、計り知れない友情のカタチを鮮明に紡いでいく。

古書とは「ありふれた一冊」ではなく、脈々と流れる所有者の人生そのものが存在するものであることを教えてくれる。
淡々と流れる白黒のストーリーに一滴ずつ、ゆるやかに色が差し込まれていく感覚。
読み終えた後、僕の頭と心の中には鮮やかで、複雑な色彩の映像が完成されていた。

2015.09.27読了

LINEで送る
Pocket

関連記事